アーティストが売れ続けることは、まるで波乗りのようだ。
一度は大きな波に乗れたとしても、その波が次々にやってくるわけではない。
前回のコラムで触れたように、完売した瞬間の喜びに浸っている暇はない。
「なぜ売れたのか」を冷静に振り返り、次の波に乗るためにどう準備するかを考えることが必要だ。
つまり、「勝って兜の緒を締めよ」というわけだ。
だが、波に乗れなくなる時もある。マーケットの状況次第で、突然、波がなくなることがある。
単純に、購入する層が減っているからだ。
そうなると、アーティストたちの間で競争が始まる。みんながその限られた波に乗ろうとして、ますます目立とうとする。
しかし、目立つためにはただ良い作品を作るだけでは足りない。目立つ場所に自分を持っていくためには、露出の量を増やさなければならない。
たとえ、ギャラリーに足を運んだコレクターがみんな購入してくれるわけではない。多くの人は、興味を示してもその場では買わずに帰ってしまう。
しかし、あきらめるのはまだ早い。その中には、「この作品、実はすごく気に入っていたんだけど、先に誰かに買われちゃった」ということもある。
アートは「一期一会」のようなものだから、売れた瞬間を逃すと、同じ作品が二度と手に入らない可能性が高い。
それを考えると、顧客がどんな作品を求めているのかをしっかりと理解し、そのニーズに応じた作品を作ることが重要になる。
でも、顧客のニーズを理解するのは、アーティストにとって難しいことだ。
だって、アーティストが「これを作りたい!」と思って作った作品と、実際に買いたいと思う作品にはズレがあることもあるからだ。
そうなると、マーケットの感覚を持っているギャラリストと組むことが本当に大切になってくる。
ギャラリストは「売れるもの」を見極めて、アーティストにその情報を伝えるだけでなく、どうしたらその作品が一番多くの人の目に触れるか、どうマーケティングしていくかを一緒に考えてくれる人だ。
もちろん、「好きな作品を作ってくれ」というギャラリーもあるだろう。
でも、そんなギャラリーにすがっていても、結局は作品が売れなくなっていく現実に直面することが多い。
ギャラリストは、アーティストにとって「いい人」だけではダメだ。
むしろ、コレクターの代弁者として「この作品はどう売るべきか?」「どうやって顧客のニーズに応えるか?」を真剣に考え、一緒にディスカッションできる信頼できるパートナーであるべきだ。
この「妥協点」を見つける力が、これからのアーティストには必要だと思う。
アーティストは、理想を追い求めつつも、売れるものとのバランスを取ることが重要だ。
例えば、デザインやイラストとアートの違いを意識する声もあるだろうが、商業的に成功しているアーティストは「自分の作りたいもの」と「顧客が欲しいもの」の間にうまく橋をかけている。
これがプロフェッショナルの仕事だ。だから、売れるものを意識して作品を作ることは決して「アートの質を落とすこと」ではない。むしろ、アートをプロとして成り立たせるための必須条件と言えるだろう。
そして、マーケットの動きを理解するためには、やはりギャラリストとの協力が不可欠だ。
アーティストだけでは、自分が作りたいものと顧客のニーズをうまく合わせるのは難しい。
それを助けてくれるのが、顧客の心をつかみ、どんな作品が売れるかを熟知しているギャラリストだ。
彼らはアーティストの「好き」に寄り添いつつ、マーケットに合った作品展開をサポートしてくれる。そして、アーティストとギャラリストが一緒に歩むことで、成功への道が開けるのである。
アートは、「これが自分の作りたい作品だ!」という熱意と共に、マーケットの現実をうまく組み合わせることで、初めて真の成功を掴める。
ギャラリストと一緒に、戦略を練り、しっかりとしたマーケティングを行いながら、アートの世界で生き残っていく。それが今の時代のアーティストに求められることだと言えるだろう。
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